患者様向け
慢性疲労症候群とは、診察や検査で客観的な異常が認められないにも関わらず、日常生活を送れないほどの重度の疲労感が長期間続く状態のことをいいます。20~50代にかけて多く発症し、男性よりも女性に多く見られる傾向にあります。
慢性的な疲労感以外にに発熱、リンパ節腫大、咽頭痛などの感染症様症状、頭痛、筋肉痛、関節痛、脱力感などの膠原病様症状、睡眠障害、思考力低下、抑うつ、不安などの精神・神経症様症状などの多彩な症状が伴う場合もあります。
慢性疲労症候群は筋痛症性脳脊髄炎とも呼ばれます。CDC(米国疾病対策センター)により 1988年にCFS(Chronic Fatigue Syndrome:慢性疲労症候群)と提唱された疾患概念です。
一方、同様の病態が英国・カナダなどでは ME (Myalgic Encephalomyelitis:筋痛性脳脊髄炎)と されており、近年は ME/CFS と併記されることが多いです。
1990年代ごろから、日本でも国際診断基準に基づく症例が報告され、現在も患者数が増え続けています。
Ⅰ・筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群(ME/CFS)の症状
►ME/CFSの疲れは「通常の疲れ」と違う:
慢性疲労症候群というと、普通の疲れがちょっと進んだ状態、といったイメージでとらえる場合が多いかもしれません。通常の疲れは、質のいい睡眠やバランスのよい食事など十分な休養を取り、不足している栄養素を補給することで回復します。しかし、ME/CFSの疲労は、十分な休養をとっても回復しない疲労感が持続し続けます。6ヵ月以上を経過しても回復しません。疲労感以外に、微熱、筋肉や関節の痛み、不眠、集中力の低下、気分の落ち込みや無気力、不安感などを伴う場合が多く見られます。
Ⅱ・筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群(ME/CFS)の疫学
厚生労働省が2012年に行った疫学調査では約12万7000人、2018年時点では18万人から24万人がME/CFSを罹患していると推定されています。
20代から50代のうちに発症するケースが多く、患者全体のうち女性が6~7割程度を占め、アレルギー疾患を併発するME/CFS患者が多いといわれています。
Ⅲ・筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群
(ME/CFS)の発症要因
ME/CFSの原因はまだよくわかっていません。しばしば体の神経系や内分泌系、免疫系に異常がみられます。風邪などの感染症の後に発症するケースも多く、元気だった人が一日中ベットで過ごす生活になってしまうこともあります。
精神的及び身体的なストレスが関係している可能性があると考えられています。また、几帳面な人、真面目な人、正義感が強い人などは慢性疲労症候群になりやすいといわれています。
発症要因については、国内外とも、生理学・疫学的な研究を含む多くの研究がされていますがまだ確定はされていません。これまでに発症要因の可能性として挙げられたものには、インフルエンザ等の風邪、発熱、細菌、真菌、ウイルスなどの感染症、外傷、その他 の要因として化学物質、紫外線、アレルギー、外科手術、出産、遺伝、環境 、トラウマ、ストレス、などがあります。
重要なのは、ストレスとは楽しくない事柄だけをさすのではなく、外的刺激による「ストレッサ-」例えば、寒冷、騒音、放射線などの物理的ストレッサー、酸素、薬物などの化学的ストレッサー、炎症、感染などの生物的ストレッサー、怒り、不安などの心理的ストレッサーがなどが挙げられる点です。これらのいずれか、または複数が要因となって、ストレッサーに対する防衛機構(ストレス反応)によりホメオスタシスが変化することで、CFS/MEが発症しやすい素因が形成されると報告されています。
中でもウイルス感染の関与する事例が多く報告されています。過去に感染し、体内に潜んでいるウイルスの関与です。
初期の研究報告では、EB(Epstein-Barr)ウイルスの関与が提示され、発熱や痛みなどの後に、慢性疲労症候群の症状を引き起こすと言われていました。その後の研究から、患者さんの胃に多くみられる慢性エンテロウイルスなど、その他にもいくつかのウイルスの関与が指摘されています。現在は、ウイルスは直接の原因というよりも、発症を早める要因と考えられています。
ストレスや疲労が長期間続くと、身体の免疫系や神経系、内分泌系などの防御作用が低下します。それをきっかけに、潜伏していたウイルスが再活性化し、さまざまな症状を引き起こすと考えられます。
こうしたウイルスの再活性化に対して、私たちの体内ではそれに対抗するためサイトカイン(免疫物質)が大量につくられます、しかし、サイトカインが過剰につくられると脳や神経系、内分泌系などにダメージを与えてしまいます。その結果、脳の血流を悪化させたり、自律神経やホルモンバランスに悪影響を及ぼし、強い疲労感・倦怠感や頭痛、微熱、集中力低下など、日常生活に支障をきたす様々な症状が出ると報告されています。
►ME/CFSの発生原因(仮説)
Ⅳ・筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群(ME/CFS)の治療
1-患者様側の協力:生活習慣の改善
1)ストレスをためない
ME/CFSのきっかけになりやすいのが、ストレスの蓄積です。強いストレスの状態が続くと慢性的な疲労状態により免疫力は低下し、心身の不調が引き起こされやすくなります。 疲労を感じた時は、こまめに休養を取るように心がけましょう。
日ごろから免疫力を低下させないような生活を心がけることが、一番の予防・改善法だといえます。例えば、体内に潜むEBウイルスは、感染していても健康で免疫力が十分に働く状態であれば、活性化しません。
2)良質な睡眠
ME/CFSを改善する生活習慣として最もおすすめしたいのが睡眠です。規則正しい睡眠、特に夜の9時から11時は東洋医学的には三焦経の経絡がよく働く時間帯で、免疫機能を分泌強化してくれる時間帯です。この時間帯に睡眠をとることを心掛けましょう。睡眠をしっかりと取ることで疲労を軽減することができます。質の良い睡眠が取れるように環境を整えていきましょう。
3)適度の運動をする
安静が長く続くと「デコンディショニング」という状態に陥り、ME/CFSの症状を悪化させることがあります。適度な運動は、リフレッシュ効果もあり、免疫力を高めます。 肉体的、精神的健康を保つためには重要です。無理をすると、疲労や痛みが増し逆効果となる場合がありますので、個々の状況に合わせた運動内容と量の選択が大切です。
散歩やウォーキング、プールでの水中歩行、ヨガ、太極拳なども効果的と言われています。気分転換をかねた軽い運動を習慣にしましょう。散歩、サイクリング、ジョギングなどの有酸素運動を、段階的運動プログラムを作って、医療専門家の綿密な監督の下で徐々に始め、定期的に続けることにより、疲労感を改善し、身体機能を高めることができます。
早朝の散歩をしながら優しい日光を浴びて周りの景色をみることは、セロトニンという幸福感に影響する神経物質の分泌を促進し、ME/CFSの疲労感や疼痛の軽減に大いに役立ちます。
4)食事を見直す
食生活の偏りが、ME/CFSの一因となっている場合があります。疲労回復効果のある亜鉛(魚介類など)を多くとること。鶏むね肉は、抗疲労効果が期待されているカルノシンとアンセリンが豊富です。またヨーグルトの乳酸菌の働きで腸内環境が改善されると、栄養の吸収がよくなり、疲労回復につながります。
2-医療機関と患者様側との連携:
慢性疲労の改善に向けて
1)免疫復活療法:漢方薬
東洋医学の漢方の考え方は、体の機能を「気(神経系)・血(血行・ホルモンと共に免疫系も含まれている)・水(水分の代謝)」の3つに分け、これらのバランスが乱れたときに病気が起こるというものがあります。
漢方薬では、補中益気湯・人参栄養湯・十全大補湯・六君子湯などが適用です。患者様の体質を診て処方することが大切です。補中益気湯は補剤と呼ばれており、消化吸収の働きを良くし、免疫力を高める働きが期待されます。病後や術後の免疫低下や、微熱・全身倦怠感など、ME/CFSにも似ている症状に対して処方されており、患者の4割に有効とされています。
2)抗酸化療法(多量のビタミンC, CoQ10など)
体内の活性酸素による細胞の障害を防ぐため、抗酸化作用のあるビタミンC(アスコルビン酸)を大量(1,000mg 毎食後)に服用することにより、活性酸素を除去し、組織障害を減少させることで、微熱が軽減する例があります。ビタミンCは酸性であり、大量に服用すると胃を痛めることがあるので、セルベックス等の胃薬を併用します。
メチコバール(1,000μg 毎食後)は、ビタミンB12であり、通常は末梢神経炎の治療薬として用いられています。睡眠障害にも有効であると報告があり、脱力感・疲労感を軽減し、思考力を回復する例もあります。
3)向精神薬療法(SSRI、抗うつ薬、抗不安薬など)
ME/CFSに付随する不安症状に対しては抗不安薬が処方されます。三環系抗うつ薬は、睡眠の改善や軽い全身疼痛の軽減を目的として処方されます。非抑うつME/CFS患者に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を投与したところ、治療効果がみられたとの報告がいくつかされています。
4)認知行動療法
認知行動療法は、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法の一種です。認知は、ものの受け取り方や考え方という意味です。ストレスを感じると私たちは物事を悲観的にとらえ、問題を解決できないこころの状態が強まる傾向があります。認知療法では、そうした考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態を作っていきます。病気を悪化させると思われる考え方や行為を、どのように調整したらいいのか学びます。将来に対し前向きな展望をもつことを損ねたり、やる気や回復を妨げるような思考のパターンを客観視し調節できる力を養うことを目標とした短期間の精神療法が行われます。
5)遠絡療法:当院で症状改善を多数経験している治療法です
ME/CFSでは、脳に霧がかかったようなブレインフォグ(Brain fog)の症状を訴える方が大変多くいます。当院では、「生体の流れ」を改善する遠絡療法にて多数の改善例を経験しています。(「生体の流れ」とは、西洋医学的には神経伝達、血液、リンパ液、内分泌、髄液、間質液、イオンなどの流れ。東洋医学的には気・血・水などの流れを総称したものです。)また、疲労感そのもの改善には時間を要しますが、ブレインフォグの状態や関節痛、筋肉痛、頭痛、意欲低下、不眠、憂鬱などの症状の改善は、治療直後より実感していただけるケースが多いです。遠絡療法がME/CFSに効くメカニズムは「遠絡療法」の項目をご参照ください。
(脳に霧がかかったような状態)
ブレインフォグ(brain fog)について
ブレインフォグはME/CFSの重要な症状の一つであり、新型コロナ後遺症の重要な症状の一つでもあります。
ブレインフォグは「脳の霧」を意味しています。頭の中に霧がかかったような状態になり、記憶障害や集中力の低下、疲労、不眠症、めまいなどが起こります。
ブレインフォグ発症の仕組みはまだ完全に解明されていません。ウイルスによる脳細胞のダメージ、脳や全身の炎症が原因になっている可能性があるといわれています。脳の細胞には、ウイルスが感染する足掛かりになるタンパク質があり、肺と同じように感染を起こしやすい部位です。
日本神経学会理事の下畑岐阜大学教授によると、ウイルスの神経細胞への感染の他、血液と脳を隔てる血液脳関門や血管内皮の異常などが関係するとの推測もあります。
国立精神・神経医療研究センター神経研究所の山村特任研究部長はブレインフォグはME/CFSの重要な症状の一つとみられています。ME/CFSは著しい疲労や睡眠障害などが6ヵ月以上続きます。国内には8万~24万人の患者がいると推測され、原因などが分からない点が多い上、効果的な治療法はまだ確立していません。
米科学誌サイエンスに2020年8月に掲載された記事は、新型コロナ感染後の長引く症状のひとつとしてブレインフォグを挙げています。
►ブレインフォグに対する遠絡療法の治療の試み
小泉医院遠絡医療は、線維筋痛症(FM)、筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、帯状疱疹後神経痛(PHN)などの難治性疾患に対応しています。
人間の身体は、神経系、ホルモン系、免疫系の3つがバランスを保って働いています。ME/CFSの患者様は、大きなストレスをきっかけにして神経系の働きに異常が生じ、免疫の働きが低下して、体内に潜伏していたウイルスが再活性化すると考えられています。ウイルスが再活性化すると、私たちの体内ではそれに対抗するためサイトカイン(免疫物質)が大量につくられます。しかし、過剰につくられると脳や神経系、内分泌系などにダメージを与えます。その結果、脳の血流を悪化させたり自律神経やホルモンバランスに悪影響を及ぼし、強い疲労感・倦怠感や頭痛、微熱、集中力低下など、日常生活に支障をきたすさまざまな症状が出ると報告されています。
当院ではブレインフォグ(Brain fog)の治療は、生体の流れ(神経伝達、血液、リンパ液、内分泌、髄液、間質液、イオンなど)を良くする遠絡療法を用います。
治療後、痛み(頭痛、筋肉痛、関節痛など)はすぐ軽快します。頭もスッキリし、集中力低下、思考力低下、不安なども改善します。しかし、疲労感やだるさは、継続の治療が必要です。
ME/CFSの患者の異常な疲労感は、サイトカイン(TGF-𝛃及びインターフェロン)の産生異常といった免疫機能障害によって引き起こされると考えられています。
人が疲労を感じる際、そのシグナルとなる疲労伝達物質である サイトカインが産生されます。サイトカインが産生される機序はME/CFSの患者はストレスと密接な関係があるとされ、脳内サイトカインが様々なストレッサーによるストレス刺激によって産生されます。精神的ストレスが内分泌系や交感神経を介して、末梢の免疫細胞の機能変化を誘導し、自己免疫発症の誘因になります。免疫の指標であるNK活性が低下し、免疫低下により体内のウイルスが再活性化してサイトカインが産生されます。
►治療前後の脳の変化のイメージ図(遠絡療法にて)
2018年1月30日「ME╱CFS 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 啓蒙ドキュメンタリー映画の上映会 に参加して参りました☆」
線維筋痛症 ╱ ME/CFS ╱ 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群
「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 啓蒙ドキュメンタリー映画の上映会 に参加してまいりました」
東京都新宿区で開催された「ME╱CFS 筋痛性脳脊髄炎╱慢性疲労症候群」の患者様たちの日本での現状と正しい理解を啓蒙するためのドキュメンタリー映画上映会に、当院院長の小泉正弘医師・堂下佐知子治療師・寺木啓祐治療師の3人が参加しました。
世界的には「神経内科疾患」として病因・病態が解明されつつあるME╱CFSが、日本では精神科疾患のひとつのように捉えられ、医療機関や行政、家族を含めた周辺の人たちからも理解されずに多くの患者さんたちが孤立しているということを知りました。
医療従事者が正しい知識と患者様がおかれている現状を知る必要があると感じました。
一人でも多くの患者さんの治癒を祈念し、当院としても遠絡療法、Bスポット療法、バイオレゾナンス療法、アーユルヴェーダを介してお役に立てるよう力を尽くしていきたいと考えます。
お悩みの方がいらっしゃいましたら、どうぞご連絡ください。
下記、小泉正弘医師からのメッセージです。
「ドキュメンタリー啓蒙映画に参加させていただきました」
「ME╱CFS 筋痛性脳脊髄炎╱慢性疲労症候群」は、検査所見で脳の血流の低下・リンパ球の異常などがみられます。しかし脳の器質的な病気、つまり手術を要する病気ではありません。
保存療法が主流ですが、私は次の三つの治療法に治療効果があると考えています。
- ①和温療法:血流促進、新陳代謝促進作用
- ②Bスポット療法:上咽頭炎の炎症を取る
- ③遠絡療法:延髄と頚髄の境目のアトラスの炎症を始め、橋、中脳、視床、視床下部、大脳辺縁系、大脳皮質の炎症、「気、血, 水」の流れをよくすることで症状を軽快することが出来る。
映画を制作、出演された患者様達に敬意を表します。
【症例1】全身疲労、微熱、全身の関節痛、筋肉痛、起立性調節障害
- 【患者】
- 40才、女性
- 【主訴】
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- ①微熱
- ②起立性調節障害、体軸が定まらない不安定感
- ③全身だるい、休んでもだるさが取れない
- ④脈拍が上がったり下がったりする
- ⑤全身の関節痛、足や臀部の痛み
- ⑥生理前に聴覚過敏、筋肉のぴくつき
- 【現病歴】
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- 幼児期虚弱 扁桃腺炎を繰り返していた
- 9才 マレーシアに居住 急性副鼻腔炎 左膝の半月板損傷
- 14才 日本に帰国後、不登校、不定愁訴 自律神経失調症
- 19才 電車に乗れない 外出できないなどのパニック障害
- 26才 慢性膵炎
- 39才 めまい、若年性更年期障害
- 【現症】
- 令和2年3月 熱が38.4度まで上がったがその後下がり37.5度以上に上がらなかったため、PCR検査を受けられなかった。その後、咳、喘鳴、胸痛は落ち着いたが現在も上記の主訴が継続している。現在、国立の医療機関にて慢性疲労症候群の治研に参加している。
令和2年11月20日、遠絡治療目的で近医より当院に紹介されました。 - 【遠絡治療】
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令和2年11月20日、遠絡治療を施行し、治療直後は全身の痛みを始めとした諸症状がほぼゼロになり、ご本人も大変喜んで帰宅されました。その後 疲れが強く戻り、紹介先の近医で通院を継続していただくことになりました。
この患者様が治療後、疲労感の戻りが強かったのは、好転反応と判断しています。
患者様の虚弱体質、アレルギー体質、パニック体質などを念頭にいれて、治療時間と治療刺激量の調節が重要と感じました。ME/CFSは免疫機能の低下が発症原因の一つとされています。患者様の多くはブレインフォグ(Brain fog)の状態がみられます。遠絡治療によって生体の流れ(Life -flow)が回復することで、ブレインフォグの状態を改善し症状を軽減していくことができます。
この患者様はPCR検査は受けておられないので、新型コロナ後遺症であるかどうかは不明です。遠絡治療実施後は、自覚症状がほぼ改善されたことから、継続して遠絡治療を行うことがさらなる改善に有効と考えます。
遠絡療法は生体の流れ(ライフフロー)をよくする治療法です。脳や脊髄といった中枢神経のライフフローを改善することで、頭痛、筋肉痛、関節痛、集中力低下などの症状は早期に軽快がみられます。
しかしME/CFSの「6ヵ月以上の慢性疲労」の原因は単純ではありません。患者様の生活習慣、虚弱体質、アレルギー体質、パニック体質、特定の遺伝子異常、人間関係、神経系、内分泌系、自己免疫の異常による大量のサイトカイン産生など複雑に絡んでいる病態です。完治に導くには数ヵ月から数年にかかると考えますが、治療を続け、徐々に症状の改善を図っていくことが大切です。
治療中は医師とのコミュニケーションを大切にし、患者様にご自身にも生活全般を見直し体調管理に努めていただき、共同して治療を進めていくことが大切です。
医療従事者向け
Ⅰ・筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群(ME/CFS)の症状
ME/CFSの中核症状は:6ヵ月以上続く著しい疲労
- 1)病前のレベルの活動を行うために必要な能力が、すくなくとも6ヵ月以上にわたって低下或いは障害され、更に、新しく出現した強い疲労感を伴い、かつ
- 2)労作後の極度の消耗(post-exertional malaise)
- 3)熟睡感のない睡眠
- 4)認知機能障害もしくは起立不耐症を伴っている。
以上の4つの診断基準が必ず必要です
他に随伴症状として 消化器症状.痛み.体温調節異常.光.音.匂い.化学物質に対する過敏症などを呈する症候群です。
1-ME/CFSの疲労は病的疲労
疲労因子eiF2α+ 炎症性サイトカイン
(出典:慈恵会医科大学ウイルス学講座より引用)
ME/CFSはウイルス感染後や自己免疫疾患によって発症するケースが多いです。発症要因は遺伝子の変異とトラウマに身体的・精神的ストレスが加って引き起こされる脳の変調です。
慢性感染症の場合は、NK活性低下などの免疫力の低下に伴って潜伏感染していた種々のヘルペスウイルスの再活性化が惹起され、これを制御するために産生されたサイトカインが疲労病態を引き起こします。
自己免疫疾患の場合は、自己免疫によって自己抗体が血液脳関門を突破して、脳・神経系の機能障害を生じているのではないかという仮説が考えられています。
更にストレスの多い環境下に長い間さらされると、『elF2α』という疲労因子が『リン酸化eiF2α』という物質に変化し、リン酸化eiF2𝛂が多い環境になると、人の疲労を感知するm-RNA-ATF4:が『炎症性サイトカイン』というたんぱく質を作る命令を出す様になります。
この様に、免疫反応の炎症性サイトカインが産生されることによって、病的疲労が誘発されます。
2-ME/CFSの労作後の極度の消耗の原因
ME/CFSの労作後の極度の消耗の原因:
視床下部は体温調節やストレス応答、摂食行動や睡眠覚醒など多様な生理機能を協調して管理しています。他に交感神経・副交感神経機能や内分泌を統合的に調節することで、生体のホメオスタシスに重要な役割を果たしています。
また中脳の髄板内核は網様体賦活系に関与しており、覚醒および意識レベルにおいて重要な役割を果たします。
視床および中脳の炎症は、覚醒および意識レベルを低下させることによって、認知機能障害及び重度の疲労感を誘発します。
大脳基底核(尾状核、淡蒼球)の活性化の減少は倦怠感を誘発します。
右背外則前頭前野における体積減少レベルは疲労の重症度と相関しています。
視床下部、中脳の炎症・尾状核、淡蒼球の活性低下・及び前頭前野の容積減少を中心とした病態をふまえ、この中心病態によって、細胞のミトコンドリア代謝まで影響され、能率の悪い疲労代謝を起こした結果、6ヵ月を経過しても疲れが取れないという中核症状になり、更に、血液中の炎症性サイトカインを増加させ、脳内のミクログリアの活性化を惹起することで、付随症状として熟睡感が得られないという状態になります。疲労代謝がうまれ、熟睡感が得られないため、それがME/CFSの労作後の極度の消耗の原因になると考えられます。
1)TCA回路前半の機能低下・産生されるATP量が減少する。
まず食事を摂る事でブドウ糖が体内に入ると解糖されピルビン酸になります。その過程で酸素が充分にある状態とない状態で分解のプロセスが変わります。
①酸素が充分でない状態(嫌気性解糖の場合)・・・ ピルビン酸は細胞質で乳酸に分解されATPの生産を行います。1分子のglucoseが2分子のATPを産生します。
②酸素が充分な状態・・・ 1分子のglucoseがミトコンドリアのマトリクスで行うTCA回路では2分子のATP、ミトコンドリアの内膜で行う電子伝達系では32分子のATPが産生されます。
理化学研究所が行ったME/CFSの患者47名と健常者46名を対象とした「メタボローム解析により定量化された代謝物の結果」によると、ME/CFS患者は健常者に比べて、「ピルビン酸濃度の上昇とイソクエン酸濃度の低下」という結果となりました。
これはイソクエン酸濃度の低下はTCA回路へ回るイソクエン酸の量が低下、ピルビン酸濃度の上昇は嫌気性解糖が亢進という意味です。つまりME/CFS患者はATP産生能率の悪い嫌気性解糖が亢進し、ATP産生能率の良いTCA回路前半の機能が低下する為、産生されるATP量も減少することが推察されます。
2)TCA回路前半のエネルギー産生を補うため「疲労代謝」が生まれる。
尿素回路はアミノ酸をエネルギーとして活かす際、「毒性の高いアンモニア」が生成されます。このアンモニアは尿素回路によって「毒性の低い尿素」に変換され、さらに腎臓を経て尿中に排泄されます。
理化学研究所のメタボローム解析により定量化された代謝物の結果によると尿素回路内でオルニチン酸濃度の上昇、シトルリン濃度の低下が確認されました。
尿素回路を回すため、2分子のATPも必要です。先に話しましたTCA回路前半の機能低下と産生されるTCAの減少があります。TCA回路のエネルギー産生の低下を補うため、オルニチンからシトルリンへの代謝が抑えられ、グルタミン酸代謝への流れを増加させて、グルタミン酸→GABA→コハク酸へ変化して、それが新たにTCA回路に入っていき、TCA回路後半に置いてエネルギー産生を補おうとするメカニズムになります。いわゆる疲労代謝が生まれます。
(出典:メタポローム解析については理研化学研究所HPより引用)
3-熟睡感のない睡眠
健常者の腋窩温は16時頃に最も高く、20時には低下し、起床後の午前8時に最低値をとるという日内リズムが存在しますが、ME/CFS患者では20時以降に体温が上昇することが多く、入眠時に体温が高くなるため不眠を訴えることが多いです。
ME/CFSの睡眠に関して、重要な臨床所見としては、熟睡感のない睡眠であり、総睡眠時間は延長しているにもかかわらず、睡眠による疲労回復が得られにくいことです。
睡眠には身体のみが休息状態となるレム睡眠と、脳も含めて休息状態になるノンレム睡眠が存在し、特にノンレム深睡眠stage3、4は脳の休息にとって最も重要な睡眠期間と考えられています。
大阪市立大学大学院医学研究科によりME/CFS群では深睡眠stage3、4が5分未満が有意に頻度が高くなりましたが、全睡眠時間に占める良質な深睡眠stage3、4が5分を超える割合は有意に低いことが報告されています。
4-認知機能障害や体位性頻脈症候群(POTS)を伴う
POTS(postural orthostatic tachycardia syndrome)
1)認知機能障害
認知機能障害の遠絡医学的見解では、Atlas(頚椎1番レベル)での自律神経系の圧迫によって、脳へ行く副交感神経の機能が低下し、相対的に交感神経の亢進による血管収縮、頭部への血流低下が起こるとされています。
例えば認知機能障害の一つに、アルツハイマー病があります。
アルツハイマーの脳では、ミクログリアが活性化していることが知られています。
アミロイドベータタンパク質は神経細胞にとって毒性を持つため、特に蓄積したアミロイドベータタンパク質の周囲で活性化したミクログリアがタンパク質を貪食して、炎症性サイトカインの量が増えているといった報告があります。
ME/CFS患者の脳でも、ミクログリアが活性化して、数が増えることで、サイトカインの量が増え脳が炎症を起こし、認知機能障害に関与していると考えられます。
2)体位性頻脈症候群(POTS)
POTSの発生には、ウイルス感染、循環血液量の低下、交感神経過剰反応、自律神経のニューロパチー、自己免疫、起立時のノルアドレナリン分泌の急上昇、長期臥床による身体機能の低下、などの関与が知られています。ME/CFS患者でもこれらの要因が関与して、体位性頻脈症候群(POTS)を発症しやすくなります。
POTSでは、立位により心拍数が急上昇して、立ちくらみや失神などの症状が現れます。横になると症状が柔ぎます。診断基準は仰臥位から立位になることによって、血圧の低下は無いが、脈拍数30以上の上昇、または脈拍数が120以上です。
Ⅱ・筋痛性脳脊髄炎 /慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断
1-ME/CFSの臨床診断基準(2017年日本厚生省)
1)6ヵ月以上持続なし再発を繰り返す以下の所見を認める
医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること (PS3以上)
- 1、強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下
- 2、活動後の強い疲労・倦怠感(post-exertional malaise)
- 3、睡眠障害、熟睡感のない睡眠
- 4、①認知機能の障害 または②起立性調節障害
2)ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査
- (1)尿検査
- (2)便潜血反応(Hb)
- (3)血液一般検査(WBC,Hb,Ht,RBC,血小板、末梢血液像)
- (4)CRP,血沈
- (5)生化学(TP,TG,AST,ALT,LD,r-GT,BUN,Cr,尿酸、CK,電解質、血糖)
- (6)甲状腺(TSH),リウマトイド因子、抗核抗体
- (7)心電図
- (8)胸部単純X線
3)鑑別すべき主な疾患・病態
- (1)臓器不全
肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など - (2)慢性感染症
AIDS,B型肝炎、C型肝炎など - (3)膠原病
SLE,RA,Sjogren,炎症性腸疾患、慢性膵炎 - (4)神経系
MS,てんかん、神経筋疾患、頭部外傷後遺症など - (5)系統的治療
臓器、骨髄移植、癌化学療法、脳胸腹部骨盤への放射線治療 - (6)内分泌
DM、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全 - (7)原発性睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど - (8)精神疾患
双極性障害、統合失調症、うつ病、薬物依存症
4)共存を認める疾患・病態
- (1)機能性身体症候群(FSS)に含まれる疾患・病態 線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、間質性膀胱炎、月経前症候群、片頭痛、機能性胃腸症
- (2)身体表現性障害(DSM-IV),身体症状及び関連症群(DMS-5),気分障害(双極性障害、うつ病を除く)
- (3)その他
起立性調節障害:POTSを含む若年者の不登校 - (4)合併疾患
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)
特発性慢性疲労(Idiopathic chronic fatigue)
患者が6ヵ月以上続く原因不明の疲労・倦怠感を訴えているがME/CFSの診断基準を満たさない場合
2-PS(performance status)による疲労
倦怠の程度
ME/CFSと診断される状態とは、PS 3 “全身倦怠感の為、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である”以上の疲労程度であることが求められている。
- 0:倦怠感がなく平常の生活ができ、制限を受けることなく行動できる。
- 1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、倦怠感を感ずるときがしばしばあります。
- 2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠の為、しばしば休息が必要です。
- 3:全身倦怠の為、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要です。
- 4:全身倦怠の為、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要です。
- 5:通常の社会生活や労働は困難です。軽作業は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要です。
- 6:調子のよい日は軽作業は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している。
- 7:身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、通常の社会生活や軽作業は不可能です。
- 8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要、日中の50%以上は就床している。
- 9:身の回りのことはできず、常に介助が必要、終日就床している。
3-ME/CFSの診断
バイオマーカー BCRレパトアの解析
ME/CFSの診断は、従来、病歴聴取と臨床症状の評価に頼っていましたが、最近ではバイオマーカのBCRレパトアが発見されたため、血液検査で、80-90%の精度で診断出来るようになりました。
ウイルスなどの「抗原」が「抗体のB細胞受容体(BCR)」に結合すると、細胞は活性化され、免疫反応を開始します。
遺伝子再編成
多様な抗原と反応できるように、「遺伝子再構成」スプライシングによって、「多様な抗体のB細胞受容体(BCR)が創出」されます。
抗体の遺伝子を調べると、B細胞の種類は1兆個以上あります
このように、個々に異なる特異性を持ったBCRによって、「特徴づけられたリンパ球のコレクション」を「BCRレパトア」といいます
抗体の免疫グロブリンG heavy chainのV領域に着目すると100種類程度に分類できます。
様々な細菌やウイルスを認識するため、免疫を担うリンパ球の一種であるB細胞には「一つ一つの免疫細胞が違う抗体を出す」と言う機能があり、まさしくバーコードのように抗体の配列を見れば、どのB細胞だったのか分かります。
100種類のうちの6種類のB細胞が、ME/CFS患者の血液中で増加しています、この6種類のB細胞を評価することで、ME/CFSの血液診断が可能になります。
資料:国立精神・神経医療研究センターの山村隆部長らの研究グループ
Ⅲ・筋痛性脳脊髄炎 /慢性疲労症候群(ME/CFS)の検査
1-ME/CFSにおける内分泌系の異常
ME/CFS患者は、血清コルチゾール減少、血漿ACTH増加、尿中カテコラミンの上昇、抗利尿ホルモン基礎値の減少と全身水分量の増加、ACTH試験における副腎感受性の亢進と最大反応性の低下、インスリン誘発低血糖時においてプロラクチンや成長ホルモンの分泌異常などが報告されています。
ME/CFS患者ではしばしば抑うつ状態を合併することよりうつ病との鑑別が問題となっていますが、うつ病患者では血液中のコルチゾールが上昇していることが多いのに対しME/CFS患者では減少していることが多い。
ME/CFS患者ではTGF-βの産生異常により、神経ホルモンDHEA-Sの低下・アシルカルニチン異常・グルタミン酸・γ-アミノ酪酸 (GABA) の産生低下が起こります。またDHEASの減少が強い症例では脱力感や記名力の低下が報告されています。
2-ME/CFSにおける脳神経機能の異常
ME/CFSにおける不定愁訴は脳の機能異常に基づくものであると議論されています。
ME/CFS患者の病態機序の一つとして、長鎖脂肪酸欠乏が関与していること、特に前頭前野(ブロードマン9,24,32,33野)の部位に限定してのアセチルカルニチン取り込みの低下が報告されています。
血中アセチルカルニチンの濃度低下により、倦怠感・思考力・集中力の低下なども引き起こす原因とされています。
PETによる脳の血流検査により、下記の血流が大幅に低下し神経細胞の活動レベルが下がっていることが報告されています。
血流が低下した部位 | 慢性疲労と関連ある症状と関連 |
---|---|
前帯状回・眼窩前頭野 | 意欲やうつ状態と関係している |
背外側前頭前野 | 新しい計画を立てたり新たな行動の意欲 |
側頭葉 | 記憶と関連 |
後頭葉 | 視覚と関連 |
脳幹部 | 意識中枢や筋肉運動調節中枢、呼吸・心拍・体温調節などの基本的な生命現象の中枢 |
3-ME/CFS患者の免疫系の異常
ME/CFS患者ではアレルギー歴を有する人が多く、また抗核抗体の出現、免疫グロブリン異常、血中免疫複合体の増加、NK活性や単球機能の低下、リンパ球のサブセット異常、種々のサイトカインの異常などが報告されています。
ME/CFS患者の異常な疲労感は、種々の身体的・精神的ストレスによる環境要因と遺伝的要因によって引き起こされた神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であり、NK活性低下などの免疫力の低下に伴って潜伏感染していた種々のヘルペスウイルスの再活性化が惹起され、これを制御するために産生されたサイトカイン (TGF-βやインターフェロン)などが脳・神経系の機能障害に関与している可能性が大きいと報告されています。
ME/CFS病態の1つの原因として、自己抗体が脳・血液関門を越えて脳機能異常を惹起している抗ムスカリン1型アセチルコリン受容体抗体が発見されました。mAChRに対する自己抗体が陽性のME/CFS患者では、脱力感や思考力の低下が見られます。mAChRの発現量が健常者に比べて低下していることが報告されています。
4-ME/CFSとミクログリアの関係
ME/CFS患者の脳の海馬、視床、扁桃体を含む複数の領域でミクログリアの活性を伴う神経炎症があり、器質的病変を伴う疾患であることが報告されています。
ME/CFSのモデルラットでは、脊髄の後角でミクログリアの集積や活性化が見られました。またこのラットは通常のラットより強い痛みを感じるが、ミクログリアの活性化を薬剤で抑制すると、痛みも抑制されたことが報告されています。
PET検査により異常所見が確認されたME/CFS患者の頭のCTやMRI検査では明らかな異常所見が確認できませんでした。しかし重症のME/CFSではミクログロリアの活性化による神経炎症が起こっていたことが報告されています。
5-ME/CFSとストレスの関係
ME/CFSは、ストレスや感染のみでは発症せず、ストレスと感染が重なることによって、長く続く痛みや抑うつ・疲労が引き起こされている可能性があることが報告されています。
人間の身体は、神経系、ホルモン系、免疫系の3つがバランスを保って働いていますが、社会心理的ストレスをきっかけに、神経系の働きに異常が生じ、NK活性など免疫の働きが低下すると、体内に潜伏していたウイルスが再活性化されます。そして、再活性化したウイルスを抑え込むために、体内では、免疫物質が過剰に作られるようになります。この過剰に作られた免疫物質が、脳の働きに影響を及ぼし、強い疲労感や様々な症状を起こすのではないかと報告されています。
Ⅳ・筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群
(ME/CFS)の病態メカニズム
1-ME/CFSの脳内の免疫系賦活を起す3つのルート
1)脳内での感染による免疫系賦活
脳内での感染による免疫系賦活あるいは「脳外から脳内へ」の免疫系を賦活させる経路があります。
脳内で炎症が起きると、脳内免疫防御を担っているミクログリアが活性化し、炎症性サイトカインを分泌します。
2)全身、局所の感染や炎症から脳内での感染による免疫系賦活
液性経路:全身・局所の感染や炎症に伴い、リポ多糖やグラム陰性菌抗原が血液脳関門通過性を亢進させた結果として、血液循環を介した脳内での免疫系を賦活させます。
リポ多糖は、主としてグラム陰性菌の外膜に存在する多糖のことです。リポ多糖は病原因子として知られ、体内に侵入したグラム陰性菌の死滅や破壊により、遊離したリポ多糖のリピッドA部分が免疫反応を過剰に亢進させ、重要臓器の機能不全、エンドトキシンショックを引き起こします。
3)腸管での感染や炎症
神経経路:腸管での感染や炎症をきっかけとする、迷走神経を介したシグナル伝達による 脳内での免疫系賦活があります。脳外での自然免疫系賦活が炎症性サイトカイン、グルタミンなどの興奮性アミノ酸、NO、活性化酸素、やプロスタグランジンなどの神経興奮性分子を生じます。迷走神経を包み込んでいるグリア細胞や感覚迷走神経の傍神経節はこれらの分子に対するケモレセプターを持っています。これらのケモレセプターが活性化されることで逆行性に迷走神経から孤束核へとシグナルが演達され、脳での自然免疫が惹起されます。
2-ミクログリアと血液脳関門
脳には、大きく分けて2種類の細胞が存在します。ニューロン(neuron、神経細胞)と グリア(glia、神経膠細胞)です。グリアには、さらに大きく3種類の細胞が存在します。アストロサイト、オリゴデンドロサイト 、ミクログリアの3つです。
►ミクログリアのダイナミックな活動
ラミファイド型ミクログリアは、細長い突起をゆらゆらと動かしながら、脳内に異常がないかをパトロールしています。通常、細胞外にはATPはほとんど存在しません。しかし損傷を受けたり、寿命の尽きた神経細胞は、細胞外に大量のATP (私を見つけて信号Find me signal)を放出します。ミクログリアはこのATPの濃度が高い(損傷を受けた神経細胞の高い)ほうへと移動します。 移動したミクログリアは、サイトカインを放出して、炎症反応を引き起こしたり、脳由来神経栄養因子BDNFを放出して神経細胞を保護するのを助けたりします。
一方、すでに神経細胞のダメージが大きすぎて助けられないとき、このような状態の神経細胞はUDP(Uridine diphosphate ウリジンニリン酸グルコース)も放出します。ミクログリアがこのUDPを感知すると、アメーバ状に変化し貪食する準備を始めます。損傷の激しい神経細胞は、細胞膜の構造が壊れるので、通常膜構造のなかで整列している「ホスファチジルコリン」が露出します。ミクログリアはこの損傷の大きい細胞から露出したホスファチジルコリン(私を食べて信号Eat me signal )を貪食を始めます。
名古屋大学大学院医学系研究科(神戸大学先端融合研究)らのグループは、脳内の免疫細胞であるミクログリアが血液脳関門の機能を制御することを発見し、そのメカニズムを初めて明らかにしました。
炎症の早期で、ミクログリアは血管内皮細胞の細胞接着に重要な分子のところに集合し、ミクログリアが自ら破れたホースの水漏れを抑えるシールのように働いて血液脳関門の機能低下を抑制します。
炎症の後期で、ミクログリアは血液脳関門を構成するアストロサイトという細胞の突起を一部貪食します。アストロサイトの突起は血液脳関門の維持に重要であることが知られ、この構造の破綻をきっかけに血液の漏出が引き起こされると考えられます。
脳内の血管は、血管内皮細胞やアストロサイトなどから成り立つ血液脳関門と呼ばれる特殊な仕組みをしており、全身を巡る循環系と中枢神経系の環境を隔てるバリアとして機能しています
ME/CFSの病態は、このようにミクログリアがアストロサイトの突起を貪食し、脳の細動脈血液の脳実質への漏出が起こることによって、神経細胞死や神経活動の異常が生じるということが明らかにされてきました。
3-ME/CFSの病態メカニズムは自己免疫疾患の関与が主な要因と考えられる
理化学研究所の研究グループによると、ME/CFS患者の血中の自己抗体である抗ムスカリン1型アセチルコリン受容体抗体が血液脳関門を突破して、脳神経細胞のムスカリン1型アセチルコリン受容体に結合していること、そして脳機能異常を惹起していることが報告されています。
抗ムスカリン1型アセチルコリン受容体抗体がME/CFSの半数以上で陽性です。
国立研究開発法人国立精神神経医療研究センターの山村研究部長は、ME/CFSの発症について、①ME/CFSでは感染性病原体が自然免疫系を活性化し、それに続発して自己抗原への感作が成立しやすくなる可能性あるいは②ウイルスが自己抗原と相同性を有するペプチド配列を有し、それに対する感作が自己免疫病態を誘導する可能性「分子相同性仮説」を考えています。
ME/CFS患者はアレルギー歴を有する人が多く、抗核抗体は膠原病と診断されないME/CFS患者においても約1/2~1/3で認められています。そのほかにはnatural killer(NK)細胞活性の低下、ヘルパーTh1細胞/Th2細胞バランスのTh2細胞へのシフト、制御性T細胞の上昇、B細胞サブセットや好中球の異常も示唆されています。
Ⅴ・筋痛性脳脊髄炎 /慢性疲労症候群
(ME/CFS)の治療
1)薬物療法
イミダペプチドは、渡り鳥の羽根の付け根の筋肉に 豊富に含まれる物質で、抗疲労作用に優れています 。
コエンザイムQ10(CoQ10)は、ミトコンドリア呼吸鎖における重要な物質のひとつですが、酸化ストレスなどからミトコンドリアへのダメージを防ぐなど、強い抗酸化物質であると考えられています
リツキシマブは、B細胞を枯渇させる抗CD20モノクローナル抗体であります。国内では2001年に「B細胞性悪性リンパ腫」の治療薬として承認されています。
CD20はB細胞のみに発現する膜蛋白質です。B細胞が活発に活動しているときには、CD20が高度に出現しています。リツキシマブはB細胞の表面に出現しているCD20に結合する抗体で、B細胞を特異的に攻撃します。
漢方薬では、免疫力や気力を回復させる効果、胃腸の働きや血液の巡りを良くする効果が期待される補中益気湯の投与が最も多くみられます。
低量のステロイドを投与する治療:国立精神・神経医療研究センター神経研究所特任研究部長の山村隆氏は、ME/CFSの症状に対して低量のステロイドを投与する治療を行っています。自己抗体が自分の細胞を攻撃しないようステロイドによって過剰な働きを抑えることがねらいです。7割程度の患者に効果がみられ、日常生活が送れるようになった事例もあるといいます。
2)和温療法
心身をリラックスさせ、爽快な発汗をもたらし、気分・食欲・睡眠・便通を是正し、うつ気分を軽減させる「なごむ・ぬくもる」療法です。
実施方法は、室内が均等の60℃に設定された、遠赤外線、均等乾式サウナ室で15分間入浴します。入浴後、リクライニングベッドに仰臥位になり、全身を温めた毛布で包んで30分間の安静保温を行います。
3)認知行動療法
自分の周りで起こっている出来事、その「捉え方や考え方」の事を「認知」といいます。
認知行動療法では、出来事における自分の反応を、「認知(思考)」・「感情」・「行動」「身体反応」の4つに分けます。この4つはすべて、相互作用しており、どれか一つでも、ネガティブな反応を示したら、他も相互作用でネガティブになります。
出来事に対する「反応」は一つではありません。たくさんの反応がありえます。しかしネガティブな思考の悪循環にはまってグルグル考え続けてしまうと、さらに不安や絶望を感じるような思考となり、最終的には「私が悪いんだ」「私がもっと頑張らなければ」「私なんて生きている価値がない」というパターンに陥ります。
このような「悪循環」を「認知」と「行動」に焦点を当てて修正し、考え方の幅を広げ、「認知」を柔軟にすることによって、物事の受け止め方に余裕ができ、喜び・楽しみを感じることができるようになります。
4)反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)
ME/CFS患者の 優位大脳半球(右利きであれば左)の背外側前頭前野(DLPFC)を経頭蓋的に高頻度(10Hz)磁気刺激すると、疲労感が軽減します
報告では1日2回、(10Hz×10秒間刺激)+休止50秒間、を25回繰り返し行った結果、入院時のVAS値に比べ自覚症状が30%以上改善しました。しかし、2週間目には、全例がほぼ入院時の疲労状態に戻りました。
現在、rTMSで得られる臨床症状の改善効果を、さらに長期にわたって得るための研究が行われている段階です。
5)Bスポット療法(EAT 上咽頭擦過療法)
上咽頭は細菌やウイルスに対する免疫の最前線に当たる場所で、慢性の炎症が起きやすく、活性化リンパ球、神経線維が豊富な部位です。ME/CFSにおいて、症状から障害部位と推察される脳下垂体・中脳・間脳に近い位置にある上咽頭の慢性炎症を治療することは、症状の改善に寄与すると考えます。(当院にて実践しています。)
6)アイソメトリックヨガ療法
アイソメトリックヨガは、通常のヨガのポーズと共通していますが、以下の4点で大きく異なっています。①曲げる、伸ばす、ねじるなどの動作は生理的可動域の範囲内で行い、②呼吸をより意識できるよう声を出しながら行います③高度な柔軟性とバランス感覚を必要としません。
現時点でME/CFSの機序は明らかではありません。そのため、ヨガがME/CFS症状を改善する機序についても推測の域を出ませんが、ヨガの抗ストレス作用、交感神経抑制、副交感神経賦活作用、抗炎症作用、酸化ストレス軽減作用などが総合的に作用している可能性があります。
7)バイオレゾナンス療法(ドイツ振動医学)
あらゆる物体(ヒトも含みます)は固有の振動を持っていますが、病気など異常があると本来とは異なる振動を発します。
「バイオレゾナンス」では振動測定器を用いて異常振動をしている物体(細胞・臓器)を探し出し、正しい固有振動へと修正して健康な体の活性化を図ります。
►不調の原因を調べたい
- ①化学物質や重金属、電磁波、ジオパシックストレスなどの影響を受けていないか調べたい。
- ④頭痛、リウマチ、関節炎、膠原病、慢性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群、アレルギー、発達障害、原因不明の体調不良など
- ③リハビリや遠絡療法の治療効果を妨げる要素を取り除き、効果的に治療したい。
- ④頭痛、リウマチ、関節炎、膠原病、慢性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群、アレルギー、発達障害、原因不明の体調不良など
また有害ミネラル・ウイルス・電磁波などが体に与える影響を測定し、中和(解毒)することも可能です。
8)遠絡療法
ME/CFSで生じる不安、憂鬱、物忘れ、不眠、めまいなどの症状は、遠絡医学的には「間脳蓄積症状」つまり脳の静脈鬱血による間脳の機能低下により頭の中に霧がかかったようなBrain fogに近い症状と推測します。「間脳蓄積症状」は、遠絡療法の良い適用となります。しかし、中核症状は視床、視床下部の炎症、基底核の活性減少、前頭前野および大脳皮質の容積減少の機能低下と関係ある症状なので、改善には時間がかかります。
痛みの神経伝達は、背部の棘突起部の皮膚の感覚神経は、脊髄神経節・脊髄神経後根を通り脊髄に伝わります。もし脊髄後角の神経回路に変化があれば、改めて痛覚伝導ニューロンという新しい神経の興奮がおこり、脊髄を上行し前脊髄視床路を通って大脳に伝わり最終的に脊髄後角に関連する背部の脊椎椎体部の皮膚の触覚の感受性を亢進させると考えます。
私の治療経験では、線維筋痛症やME/CFSの患者は、椎体に圧痛を感じる患者が多いです。 腰部の圧迫骨折がなければ、私はこれを「脊髄の中枢感作」と考えております。遠絡療法によるレーザー光治療により寛解できた症例を多く経験しています。
詳しくは下記のホームページをご参照ください
►CRPSに対する遠絡医療の処方式
当院での治療実績が多い疾患
交通事故後遺症
頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)